月読みの森

ちょうちょ・1

 その日。
 研究部に所属するトーマスは、何時ものようにカプセルの研究に明け暮れていた。
 地球を、ひいては宇宙を救った英雄の…マーズという名を持つ、ここでは明神タケルという名の若者が、赤ん坊の頃に入っていたカプセルだ。
 機能そのものは、簡単なもの。
 中に入った者ーこの場合は、赤ん坊だったタケルであるがーの生命を保護するためのものであり、そのための生命維持装置等がある。
 また、その後の任務に関してだろう。ギシン星や皇帝に関する様々な情報も詰まっている。
 が。
 それらは、特に重要ではない。
 否。
 重要ではあるが、その中でも最も重要なのはそれをこれほどにコンパクトな形で可能にしている最新のシステムであり、突き詰めて言えばその技術力をこそ、彼らは欲している。
それを解明するのが、トーマスの仕事だ。
 目的は、すぐに分かった。
 だがその仕組みは、ある程度の理解は得られたものの、未だ完全に解明されてはいなかった。
 だがそれも、ギシン星との和平が成った現在、基本位置にに“超能力”というものを考えるに、解明されつつあった。
 完全に解明されないのは、理論はともかくとして、実践が伴わない所為である。
 流石にこればかりはその辺の子どもを…というわけにはいかない。
 というよりも、このカプセルは、見事なまでのオーダーメイド。
 ただ一人のためにだけ、造られたものなのだ。
 だいたい、研究が始められたのが十九年前。
 その時は事情が事情なので、軍のトップシークレットとして、極秘裏に進められていた。
 本格的にタケルの協力を取り付けての研究が始まったのが、ほんの二年前。しかも、当の相手は戦闘だ何だと、しょっちゅう約束をすっぽかしてくれるし、ここ一年は、どこかへ行ってしまうしと、研究者泣かせのモノだったりする。
 それが。
 一年ぶりに帰ってきた。
 しかも、相手は以前にも増して何かと協力的で。
 研究もさくさく…とまではいかないものの、これまでを考えれば、飛躍的なまでの進歩を見せていた。
 そして今日も今日とて。
「で、これは?」
と、とにもかくにもの相手がいないとできない研究に明け暮れている。
 そして。
「ああ、これは、伝達装置ですね」
「伝達装置?」
「そうです。」
「具体的には?」
「どうぞ」
 最初はやや戸惑ったものの、答えのために、手を出されるのももう慣れたモノ。
「ま、こんな感じですね」
 弱いテレパシーを受け取って、映像とも何ともつかないものを体験する。
「なるほどー。で、仕組みは?」
「それはですね…」
 と、トーマスとタケルの掛け合いで研究は進んでいく。
 とはいうものの。
 本来ならば、この次の段階として、本当にタケルの言うとおりなのかどうか、分解して調べるのが研究者たるモノの本分なのだ。
 が。
 それは、タケルによって厳禁とされていた。
 最初の頃は、怖いもの知らずにも、分解しようとしたこともあった。外から見るだけでは、はっきり言って全然埒があかないからだ。
 だが、分解をしようとするとしっかりと電流ー死ぬほどではないがーが流れるということで、実は、最初の十七年は、実質ほったらかしにされていたのだ。
 で。
 タケルに協力を持ちかけて見てもらった開口一番が、
「絶対に、分解しようなんて、しないでくださいね」
だった。
 理由は勿論知っていたので、
「ああ。感電するのは、イヤだからね」
「感電?」
「だろ?」
と、返したトーマスに、
「よくもまぁ、それだけで済んでましたね」
と、苦笑を返されてしまう。
「…てことは?」
「ええ。無理にこじ開けようとしたら、ま、機密保持のためでしょうね。
 爆発しますよ」
 恐る恐る聞いた答えが、これ。
 しかも、
「………規模は?」
「んー。そうですねぇ。バトルキャンプの半分は、確実に吹っ飛びますね」
 そんなにさらりと言わないで欲しかったりする答えが、返ってくる。
 しかも、タケルは決して嘘や誇張は言わない。
 それは、何となく分かる。
 彼が言うのなら、そうなのだろう。
 ので。
 基本構造については、すでにギシン星からの情報で知っているので、爆発の危険を冒すことをするのを由とせず。実践の方の確認を、タケルにしてもらうということとなった。
 だが。
「でも、トーマスさん、よく平気ですよね」
「なにが?」
「だって、普通、いやがりません?」
 そう。
 実践と言うことは、タケルの超能力を、その身に受けると言うこと。
 これがなかなかやっかいな代物だった。
 勿論、実体験しなければ分からない事というのは多々ある。
 というか、この場合は、実体験しかないのだ。
 それしか、理解は得られない。
 だがしかし。
 誰が好きこのんで、自分の心をさらけ出そうと思うものか。
 サイコキネシスとかならーそれでも、衝撃波はごめんなのにーまだしも、テレパシーはちょっと…。
 それが一般地球人の、超能力を持たない者の嘘偽りのない本音だ。
 だから、最初はタケルも無理強いする気はなかった。
 だが。
「で? 
 テレパシーってのは、どんなもんなんだ? 
 できるなら、やってみせてくれんか?」 
と、言ったのが、トーマスだった。
 それでも、タケルは一度で懲りるだろうと思っていたのだ。
 何しろ極端に言えば、自分の内側に他人が存在するようなモノなのだ。慣れていないーというか、超能力を持たないー地球人には、おぞましいだけのモノだろう。
 が、トーマスは頑丈だった。
 体も、心も。
 それ故にこそ、タケルは戦いの中でも時間の許す限り協力してきた。
 そして、今も。
 けれど。
 その中には、誰にも言えない理由もあった。
 カプセルの解明に、ギシン星の協力だけではなしえなかった理由。
 これが、タケルの…マーズの為にだけ造られたモノであるということ。
 その、為に。
 タケルは、今、ここにいた。
 そして何時も通りトーマスの尽きる事がないのでは…? という質問に答えていたとき。
 それは、起こった。
「あれ?」
「どうしました?」
「これ、なんか、ちかちか光ってんだけど…」
「え?」
 小さな。
 とても小さな、予兆として。
 それを見たとき、感じたのは、安堵。
 地球では赤で示されるそれが、ギシン星では白の明滅であったこと。
 それを、どれほど感謝したことか。
 これは、限界を示すモノ。
 約束の時間が、来たことを示すモノ。
 けれど。
 これは、まだ誰にも知られる訳にはいかなかった。
 だから。
「ああ。これは…と。
 あはは、ちょっと、風邪でも引いたかな」
「え? どういうことだい?」
 ほんの少しの真実を織り交ぜて、嘘をつく。
「これはね、俺の健康状態を示すモノなんですよ。」
 嘘ですべてを固めるよりも、ほんの少しの真実が、すべてを覆い隠してくれるから。
「健康状態?」
「そ。前にも、こんな風になったことなかったですか?」
「そう言えば、あった、かな?」
「あはは、しっかりしてくださいよ」
「悪い。で?」
「ええ。これは、生命維持が、メインでしょ?」
「ああ」
「で、今でも俺と繋がってるってのは言いましたよね?」
「ああ」
「で、その職務を毎日忠実に果たしてる。いわば、健康チェックしてるんです。で、俺に何か問題があると、こうなる」
「問題?」
 タケルの言葉に、今にも医務室に引っ張っていこうとするトーマスを軽く制して、続ける。
「ええ。といっても、白でしょ?」
「あっと、そうだな」
「これが赤だと問題ですけど、白ならね、ま、軽いんですよ」
 分かっている。
 分かっているから、もう、光るな。
 そう願っても、光は止まない。
 いや、止んでもらっては、困る。
 だから、地球の、常識に感謝する。
「あ、成る程。で、風邪?」
 それに、ほっとするのが分かるから。
「多分。ちょっと喉、痛いかなって程度ですよ」
「おいおい。今日じゃないのかい?」
 でも。
「大丈夫ですよ」
 心優しい彼をだますのは、心が痛くて。
 だから。
「でも、トーマスのためにも、今日はこの辺にしときますか?」
 逃げてしまおう。
「あっはははは。そういうことにしとこうか」
「では」
「ああ。またな」
「…じゃ、また」
 すみません。
 また…と、返しながらも、心は違う言葉を紡いでいた。
 また…という日は、もうないのだと。
 恐らくは、今日を地球で迎えることはないだろう。
 そのことを、しりながら。
 それでも、タケルは言葉を紡ぐ。
 本当になって欲しいとの、願いを込めて。

 それでも。
 研究室から、与えられた部屋へと戻り。
 午後に予定されているパーティのためにシャワーを浴びながら。
『ロゼ』
 遠く、遠く。
 一瞬のテレパシーを送る。
 ただ、名を呼ぶだけの、ものを。
 約束、通りに。





へへへへv
アレの続きv
…だれか読んでる?






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