月読みの森

ちょうちょ・2

    二

 ギシン星、中央指令部にある、小さな庭。
 そこに、今二人の女性がいた。
 小さなテーブルセットには、お茶の支度がしてあり、今が休憩中なのだとうかがい知れる。
 だが。

ガタン

「姉さん?」
 寛いでいた姉ーたとえ表面上だけとはいえーが、いきなり立ち上がったのに、妹は怪訝気な表情をする。
 けれど。
「行くわ」
 真剣な表情でつづられた言葉に、すべてを悟る。
 聞いて、いたから。
 いや、許可をしたのは、自分なのだから。
 だから。
「用意は、してあるわ。何時でも発進OKよ」
 どこへとも、何をしにとも聞かずにそれだけを言う。
「ありがと。ルイ」
 そんな妹に小さく、でも心からの感謝を込めて言い、走り出す。
 今は、一分一秒でもが、惜しい。 
 外宇宙への発進港へと急ぎ、妹の言うとおり、スタンバイされていた艇ーとあるものを積み込んだーに乗り込み、発進の為のチェックをする。
 その間に管制室へと発進の許可を求める。
 地球への連絡は、妹がしてくれているはず。
 許可が出るまでの数秒、彼女ーロゼーはただ一つのことを祈り続けていた。
(マーズ、お願い。
 それ以上、なにも食べないで…と)
 けれど、待つための時間は長い。
 待ちに待った発進許可と共に、ロゼは可能な限りのフルスピードで発進していった。
 地球へ、マーズの許へと。
   

「おめでとう!」
 その頃。
「ありがとう」
 タケルは、誕生日ー勿論、本当の、ではないがーを祝う席に、主賓として出席していた。
 場所はバトルキャンプの食堂。
 出席者は、クラッシャー隊の面々と母ー長官およびケンジも出たがったのだが、どうしても外せない会議があってパスーという、小さなもの。
 それでも、籠もる想いは、優しさに溢れていて。
 だから。
「ねーねー、タケルさん、これ、僕が作ったんだよー」
 差し出される料理を、笑いながら、食べる。
「なーに言ってやがる、ほとんどおばさんに手伝ってもらってたろーが」
「何にもしない人より、ましよ♪」
 たとえそれが、己を蝕むと、知ってはいても。
「で? ミカは出さんのか? 粉まみれになっていただろう?」
「きゃー//// そ、それはー」
「ん、美味しいよ」
 本当に、美味しいから。
 美味しかった、から。
「ほ、ほんと?」
「嘘は言わないよ」
 本当に、美味しかったから。
「良かったー」
 胸をなで下ろすミカ。
 からかうナオト。
 じゃれつくナミダ。
 みんな、みんな、忘れないよ。
 だから、
「ごめん、ロゼ」
「え?」
「ロゼが、どうかしたか?」
 思わずといった風に、漏れた言葉。
 でも、俺にはもうそれに答えるだけの力は、残ってはいない。
 ああ、ロゼ。
 君には、ほんと、最後まで迷惑をかけるよね。
 窓の向こうに感じる存在に、小さく謝る。
 でもね。
 俺は、本当に、幸せだったんだよ?
 万分の一の…いや、億分の一の奇跡かもしれないこの時間が。
 そして感謝しているよ。
 哀しみはあったけれど。
 それでも、皆と出逢えたことに。
 本当に……。

カシャーン

 その瞬間。
 時間が、止まったかのような錯覚に陥ったのは、なにもナオトだけではなかった。
 それまで笑っていたタケルが。
 倒れて、いく?
 なぜ?
 何かしなくてはと思うのに、体は、動かない。
 床にタケルが倒れている。
 ああ、分かっているさ。
 でも。
 でも!
 頭が真っ白になって、何もできなかった。
 その呪縛を破ったのは、声。
「マーズ!」
 あいつを呼ぶ、おんなの、こえ。
 それに。
「ロゼ!」
 一体どうしたんだと、言いかけて、
「何をしたの!」
 逆に詰め寄るかのような声音に、動きを再び奪われる。
「なに、て」
「何か、パーティみたいだけど…?」
 それでも何かを抑えるように、問いかける。
 それでも何かを知ろうとするかのように、問いかける。
 それに。
「ああ、タケルの、誕生日パーティを…」
 事実を、述べる。
 けれど。
「誕生パーティ?」
「ああ。過ぎちまったけど、まだ六月だし……」
「したの?」 
「あ、ああ」
「なんてこと!」
 周囲を見渡し、山ほどの料理を見て、それがまるで罪悪であるかのように、ロゼは言う。
 それでも、タケルのことが気がかりで。
「一体、タケルはどうしたんだよ?」
 仲間の容態を、多分何かを知るだろう彼女に、問いかける。
「時間がない、連れて行くわ」
 なのに、ロゼは何も言わない。
「待てよ」
 知りたくて。
 だから、タケルを立たせて、どこかへ連れて行こうとするロゼの腕を取って、今一度聞こうとした。
「離して!」
 けれど返ってきたのは、痺れるほどの衝撃と、否定の言葉。
 そして。
 タケルと共にロゼは消えた。
 一瞬の、うちに。
 まるで最初から、そこには誰もいなかったかのように。
 どれくらい、そうしていたのか?
 彼らが我に返ったのは、ケンジからの、通信によってだった。
「おい、ナオト! おい!」
「あ…隊長?」
「来い!」
「ってどこへ?」
 けれど、受けたショックに頭がなかなか回転しない。
「滑走路だ」
「滑走路?」
 何でそんなとこへ?
 未だ回転しない頭。
 だが。
「先ほど、ロゼが来た」
 ケンジの発した“ロゼ”の一言に、頭が猛烈な勢いで回転し出す。
 そうだ、ロゼ!
「ロゼは、どこです!」
 何が何でも、理由を聞かなくてはならない。
 だが。
「滑走路だ」
「滑走路?」
 その答えに、疑問符がわき起こる。
 なんで、そんなとこに?
「今朝方、ギシン星から、ロゼがこちらへ来るとの連絡が入った」
「はあ」
 確かに、来た。
「それ自体は、特に問題はない。
 だが、やってきた機体は自動操縦で、本人がどこにもいない」
「はあ」
 そりゃそうだろう。
 なにせ、ここに来たんだから。
 多分、自動操縦にしておいて、直接ここへ来たんだろう…な。瞬間移動ってやつで。
「かと思うと、いきなり通信してきた」
「なんて?」
 それが、多分タケルを連れて行った後だろう。
 ようやく、聞けるかと思えば。
「しばらく、ここに停泊させて欲しいと」
「なんで?」
「理由は言わなかった」
 なんで、聞かないんだ?
「ききゃいーじゃないですか」
「ああ。聞こうとした」
「言わないんですか?」
「ああ。それだけ言うと、切った」
「引きずりだしゃいーじゃないですか」
「できればな」
 なるほど。
 あちらも、話が分からない。だからこそ、
「引きずり出してこいと?」
「話が聞きたいんだ」
 それは、こちらも望むこと。
「りょーかい」
 だがしかし。
 あの時の様子から察するに、艇にはタケルもいるのだろう。
 ならば、力任せ…というのはよろしくない。
 むむむむむ
 ん?
 そう言えば。
 ふと思いついたことを、言葉にしてみる。
「隊長、ギシン星からの連絡って、誰からのですか?」
「あ? ルイからだ」
 何を今更、という思いが見える。
 けれど、それが大事だ。
「ルイ? なんて?」
「もうすぐロゼがそちらに着くと」
「それだけですか?」
「ああ。だから、着艦許可が欲しいと」
「その理由、言ってました?」
「いや。
 ロゼが話すからとだけ」
「で、そのロゼが話せねーと。
 んじゃ、妹に聞きましょう」
 多分、知っているだろうから。
 それは、ケンジにも思い至ったらしい。
「…道理だな」
「そっち行きます」
 明確な理由は、ない。
 それでも、彼女ならば知っていると。
 そう、思えたから。
 それは、なにもナオトとケンジだけのモノではなかったようで。
「じゃ、行きましょうか」
 数分後には、食堂にいた全員ー本当は、まずいのだがーが、司令室にいた。



えへv
またまた続き
あとひとつかな

二日遅れたけど、双子さんvハピバースディv






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