月読みの森

愛しのメロウ1

そして、順番にいくつか乗せますv




 一

 昔々、幻の大陸が災厄に見舞われた時に逃れた人々は、海の底へと逃げました。
 そして、そこにドーム都市を造り、ずっと静かに暮らしていました。
 そんな彼らが、地上へとコンタクトを取ったのが、今から七年前のこと。
 侵略ではなく、友好的に。
 共に生きていこうと手を差し出しました。
 その後、各国は話し合いの場を設け、海の民ーブリタニアと名乗ったーとの交渉を重ね。
 そして、今日。
 地上の代表達と、海の代表たる王子様ご一行が、友好条約締結のためにやってこられます。
 遥か古代のテクノロジーを持った彼らと事を構えるのは得策ではないため、当然のことながら、彼らを護衛する者達の同伴を認め、地上でも彼らを護るべく人員を配置しました。

「…ってのは、分かるんだけど…さぁ。何で、俺がここにいなくちゃなんないんだろ???」
 ぶつぶつと呟けば、すぱこーん…と、小気味のいい音が響き渡る。
「ってー…。
 千葉さん! なにすんですか!」
 そう、それは、共に仕事に勤しんでいる同僚ー四聖剣と呼ばれているーの千葉が、朝比奈ー愚痴をこぼした奴であるーの頭をはたいた音である。
 で、いきなりはたかれた者として当然の抗議をしたのだが…。
「気にするな、それ以上悪くなりようがないだろうが」
「って、気にしますよ!」
 返ってきたのは、見事なまでに素っ気ない返事のみ。ついでに、言葉も冷たかったりする。
 とはいえ、それも仕方なかったりする。
 そう。
 朝比奈と千葉ーたす他の四聖剣の卜部と仙波と、上司である藤堂。他諸々の軍人さん達ーは、現在お仕事の真っ最中なのだからして。
 大体、命令されればそれに従うのが軍人である。しかもそれを受けた時点で納得しているはず。なのに、それを愚痴ることは、職務怠慢…下手すれば職務放棄とみなされても仕方のないことなのだから。
 とはいえ、朝比奈の愚痴りも、強ち無理からぬ事ではあったりした。
「大体、俺等は軍人でしょう? なのに、なーんでSP紛いのことをしなくちゃなんないんです!?」
 …そう。
 彼らに今回与えられたのは、要人警護。…先に述べた、ブリタニアご一行様の、である。
 普通ならば、それ専門の者がやる筈の仕事。
 しかも、朝比奈はこの時、前々から休暇を取っていたりしたのだ。(毎年この時期になるととるのである)
 それを、上からの命令の一言で見事に取り消された上に、やりたくもない仕事を押しつけられたのだ。
 愚痴りたくもなろうというものである。
 が。
 漢(おとこ)・千葉(←違う)、彼女はどこまでも漢であった。
「五月蠅い。文句があるなら、辞めればいいだろうが」
 そう。
 それだけ…軍を辞めることだけが、この仕事を受けなくても済む方法だったりした。
 普段なら拒否権もアルのだが、今回に限りそれはなく、拒否するのなら、軍を辞めるしかないという、なかなかにヘビーな命令を受けていた。
 朝比奈の性格ならば、イヤなモノはイヤと言い、辞めてしまいそうなモノだ。
 が。
「うー。それ出来ないの、知ってて言うんですかぁ?」
 恨めしげに千葉を見やる朝比奈には、それだけは出来ない理由が在ったりした。
 むかーし逢った、愛しの君のために。
 当然、千葉はそれを識っている。
 知った上で、言っているのだ。
 そして。
「なら、ぐだぐだ言わずに、仕事をしろ」
 そう言い切って下さった。
 それに。
「うー」
 唸り声を上げつつも、何も言わなかった。(…言えなかった、が、正しいが)
 軍を辞められない以上、命令には従わなくてはならないから。
 だからこそ、仏頂面ながら、朝比奈はもう何も言わなかった。
 そんな朝比奈を、それでいい、と千葉は笑ってやった。
 そうして、彼らは黙々と仕事をこなしていた。


 そんな彼ら…否、朝比奈を見つめる視線がふたぁつ。
 
 ひとつは、少し離れた場所で彼らと同じように警備の任につきながら、朝比奈を見つめていた、朝比奈の上司である藤堂。
 彼は、彼ら…否、彼…朝比奈省吾という人間が軍を辞めない理由も、自分たちを含めて、今回の仕事に充てられた理由ーあちら側からの要請であることーも、ともに知っていた。
 それでも、彼には何も言えなかった。
 彼も、軍人であるが故に。
 ただ、今回の事が、朝比奈にとって幸いであることを祈るだけであった。


 もうひとつは、今正にこちらへと向かっている海中の機体からのもの。
 ただ、それはまかり間違っても友好的とは言えないものであった。
 …とはいえ、暗さも殺意もない。憎しみは…ない、かもしれない。(憎しみに近いモノは、あるが)
 もしあるとすれば、敵意、のみ…か?
 そして、交わされる会話。
「…あれ、ですか?」
「そうらしいな」
「全く、あの子は何故、あんな奴を…」
「それは言ってはいけないよ?」
 それを言えば、嫌われてしまうじゃないか。
「…はい。
 ですが、私はこの目と腕で確かめなければ、納得できません」
「それは、私も同じだよ? いくらあの子が認めていようと、ね?
 さてさて、どこまで食らい付いてきてくれるのかな? 彼も、彼らも、私達の期待を裏切らないで、欲しいんだけどねぇ?」
 交わされる会話も密やかに、少々トゲを含んでいた。


 けれど。
 それを知るものは、いない。

 ただ、言えることはひとつだけ。
 朝比奈の受難は、もうすぐ、始まる。
 分かっているのは、それ、だけ♪



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